熊本大学大学院自然科学研究科地球環境科学講座
担当 横瀬久芳(海洋火山学)
海底の物質的な情報を得るためには、そこまで行って拾ってこなければなりません。しかしそこは高圧の世界。簡単にはいきません。そこで、昔から行われている手法が、ドレッジ調査です。ドレッジは、ワイヤーの先に、重りと鋼鉄製のバケツを付けて海底を引きずるといういかにも原始的な方法です。しかし、数百m下の海底の状況を想像しながら鋼鉄製のバケツを引きずるのもなかなか難しいものです。本調査では海底の状況に応じて、角型(ORI-ISHI型)と円筒形(YRG型)のドレッジを使い分けています。角型では、時として100kg以上のサンプルが回収できます。しかし、海底の起伏にスタックしやすく、せっかくの機材が水没する確率が高い。一方、円筒形ドレッジは、比較的スタックしにくく、起伏の激しい海底で威力を発揮します。釣りで例えると、わざと根掛りさせて、地面を少しくっつけたまま、仕掛けをなくすことなしに、回収するようなものです。かなり難しい作業ですよ。
回収された岩石・泥・海面・微生物は、それぞれ海洋火山学、海洋生物学、海洋化学などさまざまな分野で解析用試料となります。予想もしなかった未知なるものが回収されることも沢山あります。深海底は、まだまだなぞだらけです。
海洋の物理化学を理解する上で、海水そのものの物理化学的性質の水深変化を知ることは重要です。海水の物理化学的性質の変化は、海洋の物理条件、気象変動、海洋生物の生息環境などいろいろな事項に直接リンクしてきます。長崎丸に搭載されているCTD(伝導度:Conductivitity,温度:Temperature,深度:Depth,の頭文字)は、様々なセンサーを駆使して多くの情報(Pressure,Temperature,
Conductivity, Fluorescence Seapoint, Beam Transmission, Oxygen, Irradiance,
Surface Irradiance, Salinitity, Density, Sound Velocity)を獲得できます。これらの情報に基づいて、海水の重要な物理量を把握することが出来ます。実習では、海洋の立体構造を実際の調査を経験し、海洋学的に一般に用いられる物理量を体感する。
海洋表層部の生物相の実態を理解する目的で、比較的目の細かいウナギネットをひいて、どの様な生物が黒潮の表層部に存在しているのかを確認します。特に、黒潮は、栄養塩類に乏しく、生物生産量が乏しい事を確認します。特に、日没後の黒潮において、曳網を行い、日周鉛直移動をする生物群の観察を行います。様々な動物プランクトン、発光器を持つ深海魚の稚魚、黒潮のクリオネと呼ばれるハダカカメガイ、オキアミ、ウナギ目の稚魚など多彩な生物群を実際観察します。
船上では、航海上ロープワークが必修になります。これらのロープワークは、海上のみならず陸上生活においても大変有効なスキルとなります。実習では、代表的な結び方(ボーラインノットなど)を数種類学びます。いざというとき、これらのスキルで命拾いするかもしれませんよ。
海底が泥質堆積物で出来ている場合、それらのサンプル獲得するために柱状採泥が行われる。これは、上部に錘を付けたパイプを海底におろし、泥を筒の中にサンプルと詰めてくる仕組みです。海上から自由落下させたのでは、海流等で採泥器の姿勢が斜めになり地層をきちんと採集できなくなる事があります。そこで、この柱状採泥器に、天秤をつけ更に採取した泥が抜け落ちないようにしたのがピストンコア採泥器です。この機械を使うことで、海底表層に堆積した泥を、上下がぐちゃぐちゃにならないように、そっくり回収することが出来ます。上下関係がしっかりした堆積物は、重要な記録物として研究に活用されます。上下方向に時間変化を表す記録物としての堆積物を解読する事は、数万年から数百万年程度さかのぼるり、環境変化や海流の変化などを理解する上で重要な証拠となります。
長崎丸には、海底観察設備としてビデオカメラがある。このビデオカメラは、水深300m程度まで観察する事が出来る。しかし、なかなかコントロールが難しい。海底をゆっくり観察するということは、陸上で考える様には行かない。船も海もビデオカメラもそれぞれ独立に動くことが許されているからです。モニターに映し出された海底の様子は、未知なる領域に踏み込んだ時の一種独特の高揚感があります。
海水は、どこでも同じではなく、物理・化学的性質の異なる流体が立体的な層を成しています。またそれぞれの層の履歴はとても興味深く、深層水などは2000年程度の時間をかけて地球を旅する部分もあります。温度躍層以深の海水(通常数百mよりも深い部分)は、海洋学で深層水と呼ばれており、市販されている多くの海洋深層水程度の水深では、むしろ表層水として分類されます。実習では、CTDの設置されているボトルを活用して、深海(水深700以深)から回収した海水を実際体感します。海洋調査が世界で初めて開始された当時は、深海の海水を使ってワインのボトルを冷やしたそうです。乗船時にペットボトルを持参すると、本当の海洋深層水をお土産に持って帰れます。下船までの間に、ペットボトルに入れた海水を冷凍し、持ち帰ることが出来ます。リアル深層水を煮詰めて作った天然塩は、まろやかでおにぎりなどには絶品です。
ウナギネットで回収される生物群の一例を下記に示します。一時間程度曳網しても、とても少ない生物しか取れません。しかし、種類は実に多様で、決して普段では見れない様々な生物に出会えます。
(注)背面グリーンの格子一辺のサイズは、1㎝です。
CTD実習とやるときに、もう一つ物理実験をやります。水圧がかかる深海底は、実際にはどんなところなのか?高圧の与える影響とは?そこで、本実習では、1.発泡スチロールに圧力がかかるとどうなるのか?2.生卵やゆで卵は高圧にさらすとどうなるのか?3.キュウリは、深海底に持ち込むと深層水漬ができるか? お遊びのような実験ですが、もっとも単純で明快なれっきとした物理実験です。
発泡スチロールで出来たカップめんの容器は、物によってつぶれ方が違います。どうしてでしょう?
生卵やゆで卵は、水深1000mの水圧に耐えられるだろうか?
あるいは、ゆで卵はいい具合の塩加減になって帰ってくるだろうか?
キュウリは、美味しく漬け込まれるだろうか?
答えは、乗船して実際確かめよう。小さくなったカップ麺の容器は、記念にお持ち帰りだ!
海況にも恵まれ、スケジュールもこなせると漁業実習をさせてもらえることがあります。
さすが、水産系の実習船。理学部系ではなかなか経験できない体験です。
夜、ドリフトしているときに、イカを手釣りします。
さすがに釣りたてのイカは絶品でした。しかし、テレビの釣り番組見るような大漁とはいきません。粘って、粘って、突然糸の重さがズシ!!!!!
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